製品が良い、悪いという見方や感じ方は人それぞれだと思う。でもこの本を読むと「そんな見方もあったのか」と大きな気づきを得ることができた。著者は「製品にたいして、なぜか当たり前のように日常の不便さをみんな我慢してる。どんな製品ももっとよくできる!」と述べています。なにを「よい」とし、どうすれば「もっとよくできるのか」という著者の熱意が伝わってくる面白い1冊です。
この本はよくある「技術書ではない」です。だから公式や材料の性質、力学や電気、そして信頼性などのテーマは取り上げられていません。今すぐ使えるテクニックも載っていません。
「よい製品をつくりたい!」という ”やる気” を起こさせてくれる本です。そしてこの本の内容を実践で活かすには、「考えて練習することが必要」と書かれています。ですので、設計・開発・品質管理・製造など、 ”ものづくり” にかかわる人で、「考えてみよう」 と思った方にとっては、とても気づきの多い本で、本棚に置いておきたい1冊になると思います。
著者は、カリフォルニア工科大学で理学士号、スタンフォード大学大学院で工学博士号を取得。
一時期、米国空軍に勤務して企業数社で設計や開発の仕事を経験、その後博士課程を修了しています。「究極の品質を目指した会社(ジェット推進研究所/JPL)や、そうすべきなのにそうしなかった会社(ゼネラルモーターズ)」でエンジニアとして働き、常に品質問題に向き合ってきたその道の専門家です。
この本では、製品品質のカギを握る領域を7つ紹介し、1つ1つ丁寧に説明されています。その7つとは、
「①パフォーマンス・コスト・価格」、「②人になじむ製品」、「③クラフツマンシップ」、「④製品、感情、欲求」、「⑤美・エレガンス、洗練」、「⑥象徴性と文化的価値観」、「⓻地球という制約」です。
やっぱり普通の ”ものづくり本” ではないと思われるところです。①は数字で表したり比較したりできそうですが、その他は人の感性というか右脳というか、量で表しにくいものだと気づきます。
ですが、数字で検討できる品質は ”もちろんのこと” 、これら7つの要素をもっと真剣に考えてものづくりをしないと「よい製品」にならないということなのです。
ポイントとして、
・現状の製品は改善の余地だらけである。
・製造品質と同様に、全体品質も劇的に高めることができるだろうか。今までの取り組みで使われてきた手法を用いて高めることはできるのだ。
・偏ったせまい考えと慣習が品質の向上を ”さまたげ ている”。
・パフォーマンスには、信頼性、耐久性、サービス性、メンテナンス性などの要素が含まれる。なぜなら不具合が起きれば、直接生産者の落ち度によらなくても、製品性能に対してマイナスイメージとなるからだ。
・パフォーマンスを定量化するのは重要だが、「多ければいい」というものではない。
・人と製品の適合には4種類ある。
それは①身体、②感覚(視覚、聴覚、嗅覚など)、③知覚(脳と機械インタラクション/相互作用)、④複雑なシステムが原因で起こる問題 である。
・クラフツマンシップとは、格別にいいものをつくるためのプロセスであり、細部へのこだわり、丹念、そして誇りである。手作業のものならわかりやすいが、現代の工業製品においてはどう扱うか?
・人間には誇れる認知能力が備わっているが、製品品質を評価する際には、感情の影響をかなり受ける。
・およそどんな欲求も人の思考に大きく作用する可能性があり、その欲求を満たすための製品を考え出すヒントになり、そのプロセスの結果、いい感情が生まれる。
・一般的に工学系の大学やビジネススクールは、美学やエレガンス、洗練といったことをもっと教えるべきである。そしてそれらを身につけるに、もっと他社や関係するあらゆる製品に実際に触れることも重要である。
・ものをつくる企業は、自社製品が何を象徴するのかを理解し、それが顧客に合っているかどうか確認しなければならない。象徴性は時とともに変化するからこそ。
・簡単に欠点や欠陥が見つかる製品が多いのは、大量生産という今のシステムに内在する妥協のせいか。
・残念ながら工業製品は、その存在、製造、使用を通して、我々地球上の人類の生活の質をゆっくり(あるいは突然)悪化させるか、場合によっては破壊してしまうおそれがある。しかし、自分たちの環境を守り、改善し、人間が地球上で持続的に生きていくために努力すれば、より良い製品、より良い生活をつくるチャンスはある。
著者は、スタンフォード大学で機械工学、プロダクトデザイン、創造性とイノベーション、製品品質、技術の本質など他分野にわたって教鞭をとり、指導者に与えられる賞を数多く受賞されています。大学で教鞭をとる前のJPL(ジェット推進研究所)では、最初の月・金星・火星探査機の設計にも携わった凄い技術者です。
大前研一氏監修の有名な本「メンタル・ブロックバスター」(プレジデント社)の著者です(原書名「Conseptual Blockbusting」)。
ものづくりに関する本は、設計・開発から製造・メンテナンスまで、世の中にたくさんあります。ありすぎて、どれを読めばいいのかわからなくなる時もあります。
でもこの本に関しては、たぶん同じような本はあまりないと思いました。製品の品質について、よい品質について、この角度から書かれた本は貴重だと思います。科学技術や数学・物理など簡単ではないですが、数値化できないようなものほど、より深く、より難しいと感じます。その難しいものをどう扱っていけば「よい製品」になるか。そもそも「よい製品」とはどんな製品なのか。この本は読むたびに発見があり、よいものを作りたい!と本当に刺激されます。
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よい製品とは何か(スタンフォード大学伝説の「ものづくり」講義)
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「メンタル・ブロックバスター」―知覚、感情、文化、環境、知性、表現…、あなたの発想を邪魔する6つの壁